仙腸関節捻挫・椎間関節性腰痛
上記の二つの腰痛は症状は似ていますが、まったく異なった腰痛です。
二つの腰痛はぎっくり腰でもよくみられる腰痛です。
仙腸関節捻挫
好発年齢
20代~60代 妊婦、分娩後の女性、中腰姿勢を長くする仕事や家事が多い方
基礎知識
仙腸関節とは、骨盤を形成する骨で、尾てい骨の上の三角の骨が仙骨と呼ばれる骨で、骨盤の外側にあたる骨が腸骨です。この仙骨と腸骨とのくっつく部分が仙腸関節です。
基本的にはこの関節は、靭帯という強靭なゴムバンドで固定されていて、あまり動きのない関節ですが、妊婦さんは、この関節が動く(開く)ことによって赤ちゃんが骨盤を通過できることになります。(女性ホルモンの分泌により靭帯が弛緩する。)
また、中腰の状態では、仙腸関節が一番グラつく角度になってしまいます。
このように、普段動きのない関節でも妊娠や出産、中腰姿勢で腰を捻ったり、中腰姿勢で急に動いたりすると、関節が可動域以上にズレてしまい、ズレた状態のまま固まってしまいます。この状態が仙腸関節の捻挫です。
イメージで例えると・・・
古い雨戸を勢いよく開けたら、雨戸がズレてもっと動かなくなってしまった状態です。
症状
- 仙腸関節部の著名な圧痛
- 同じ姿勢を続けていると腰の下のほうが痛む。
- 大腿外側(太ももの外側)、足首への放散痛(圧痛ではない)
診断
- X線やMRIなどの画像検査では異常は認められない。
※重度の場合はX線で腸骨側の骨硬化を認める場合があるがごくまれ。 - だいたいは症状や圧痛部位により診断できます。
仙腸関節部の著名な圧痛
同じ姿勢を続けていると痛む。
大腿外側、足首の放散痛(圧痛はなし)
整形外科での治療
- 消炎鎮痛剤の処方
- 温熱療法
- 電気療法
当院での治療
①まずは細かい触診により仙腸関節に病態があるかを判断します。
仙腸関節自体は奥まった場所にあるため直接触れることはできませんが、周りの筋などに仙腸関節疾患特有の筋硬結や関節の微妙なズレが生じます。
②仙腸関節にはり治療をおこなっていきます。
奥まった仙腸関節にはり治療を行うには、仙骨と腸骨の隙間に沿うようにはりを刺入し、関節包やじん帯を緩め、炎症をおさめていきます。
③捻挫を起こすことによって周りの筋も硬直し、ズレた関節が元の位置に戻りずらくなっているので、周りの筋肉をはりやマッサージをしていき緩めていきます。
④関節のズレがひどく、症状がなかなかとれないものや、慢性化してしまっている者に対しては「運動鍼」をおこなって、関節に動きをつけていきます。
運動鍼はかなり刺激が強いので、はりが怖い方や敏感体質の方には致しませんのでご安心くださいませ。敏感体質の方は、はりに対する反応が良いため、運動鍼をおこなわなくても充分効果があらわれます。
⑤関節包、靭帯、筋肉が緩んだどころで、仙腸関節のズレを整体で元の位置に戻します。
周りが充分緩んでいるので、整体を行っても痛みなくスムーズに元の位置に戻すことが可能です。
私が、仙腸関節捻挫を治療するにあたり、私の治療の武器である、はり、マッサージ、整体をバランスよくおこなうことで、かなり高い治療効果を発揮してきました。この三つの治療法を組み合わせた治療は仙腸関節捻挫の治療にはもってこいの治療法と言えるでしょう。
椎間関節性腰痛
好発年齢
急性椎間関節性腰痛
どの年齢にも起きうる。特に激しい運動をしている人、重労働者に多い
慢性椎間関節性腰痛
発症は、30代に多く、それ以前あるいは40代以上では順次頻度が低下する。
※発症なので30代からずっと腰痛があり、現在60歳という人も椎間関節性腰痛の可能性があります。
基礎知識
椎間関節とは?
皆さんが一般的に言う「背骨」は、脊椎(せきつい)という骨で、首の背骨→頸椎(けいつい)、胸の背骨→胸椎(きょうつい)、腰の背骨→腰椎(ようつい)と呼ばれています。脊椎は一つ一つは小さな骨ですが、これら の骨は全部で24個あり(頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個)、それぞれ上下の脊椎で連結し、一本の長い棒のような形態をしています。
脊椎は前側(腹側)では、椎間板という軟骨を挟んで連結しており、後側(背中側)では椎間関節という関節で連結しています。
椎間関節は背骨にかかる圧力の30%を吸収しているとされ、圧力に関節が負けないよう、関節の周りを関節包という袋で包み、さらに靭帯という強靭なバンドのようなもので補強されています。
急性椎間関節性腰痛
上記のように、もともと体重の30%の圧力がかかる関節なのですが、腰を強くひねったり、重いものを勢いよく持ち上げようとすると、急激に関節にかかる圧力が増し、関節包、靭帯が引き延ばされて捻挫を起こし、炎症が起きて激しい痛みを起こします。
慢性椎間関節性腰痛
上記のように、体重の30%の圧力がかかる関節なのですが、体重の70%の圧力を吸収するとされている椎間板という軟骨は、年齢とともに水分含有率が減り、形が徐々に変形していきます。
椎間板の変性が進むと本来椎間関節にかかる圧力は30%でしたが、その比率が増え、関節にかかる負担が増し、軟骨が擦れ合って痛みを起こします。
症状
急性椎間関節性腰痛
急性椎間関節性腰痛はぎっくり腰の代表的な病態の一つです。
- 片側性(稀に両側)の腰の激しい痛み
- 特に腰の下のほうが痛むことが多い。
- 背骨から2,3センチ外側の圧痛(椎間関節部)
- 動くと激しい痛みが起きる(グキッとする)
- 殿部(おしり)や大腿外側(ももの外側)にも反射性に痛みを感じる。
慢性椎間関節性腰痛
- 腰の下のほうの痛み
- 殿部、大腿外側の疼痛
- 前屈(前に身体を倒す)すると痛みがでる←椎間関節性腰痛を識別するときに使われることがあります。
整形外科での診断・治療
診断
- X線、MRIともに画像による診断はできない。
治療
急性椎間関節性腰痛
- 消炎鎮痛薬(ロキソニン・ボルタレンなど)の投与や湿布が行われる。
- 痛みの強さや医師の判断により局所注射がおこなわれることもある。
慢性椎間関節性腰痛
- 温熱療法
- 電気療法
- 筋力増強訓練
- 一部の整形外科でマッケンジー体操
当院での治療
急性椎間関節性腰痛
ぎっくり腰の患者様には多く見られる疾患です。椎間関節性腰痛かどうかを調べるには、触診が一番大事です。しっかりと患者様の腰を触診していくと、椎間関節部に椎間関節性腰痛特有の硬結ができます。患者様はその部分を押されると、「そこが痛みの元だ!」と感じるところです。
実はこの椎間関節部を的確に触診し捉えることはとても高度な技術を要します。 私は、森田先生からスポーツマッサージを習うことにより、痛みの原因となっている椎間関節部を的確にとらえることができます。また、長年出張治療をしていると、ぎっくり腰の依頼が多く、椎間関節性腰痛の治療は最も得意な疾患の一つと言えます。
横向き、もしくはうつぶせで痛みの原因となっている椎間関節にピンポイントで鍼を施していきます。椎間関節部に鍼を当てることにより椎間関節の消炎、鎮痛、血行改善により症状緩和へとつながります。
椎間関節の痛みをかばうために腰の筋肉、殿部の筋肉も筋緊張を起こしているので、それらの筋の緊張緩和に鍼施術をおこないます。
鍼施術後、どの程度筋肉がほぐれたか、ほぐれてない筋肉はないかの確認も含め腰全体をマッサージしていきます。
慢性椎間関節性腰痛
椎間関節の消炎、鎮痛、血行改善を目的に椎間関節部に鍼を刺入します。
椎間関節をかばおうと周りの筋肉も緊張しているので、それらの筋の緊張緩和に鍼をほどこしていきます。
なかなか改善しないようなら、パルス療法(鍼に電気を流す)や運動鍼を施し痛みの改善をはかります。